シンガポールに住んでいると、
「米国株・米国ETFで長期投資したい!」
と思う場面って多いですよね。
S&P500や全米株式(VTIなど)は実績も情報量も多く、
「とりあえず米国ETF」というのは、世界共通の王道ルートです。
ただし――
シンガポールから米国ETFを買う場合、「配当30%課税」という壁 が立ちはだかります。
この記事では、
- そもそも「30%課税」とは何か
- シンガポール居住者にはどんな影響があるのか
- それを軽減する選択肢としての アイルランド籍ETF(UCITS)
を、できるだけシンプルに整理してみます。


シンガポールで米国ETFを買うと何が起きるのか?
まず前提として、
- シンガポールはキャピタルゲインも配当も非課税の国です。
- しかし、シンガポールから外国株を買う場合は、当該地の税金がかかることに注意する必要があります。
- 例えば、米国の企業が出す配当には、非居住者に対して 一律30%の源泉徴収 がかかります。
シンガポールは米国と租税条約がないため、シンガポール居住者が VOO や VTI など「米国籍ETF」から配当を受け取ると、配当に30%課税される という構図になります。

一方、日本 ⇔ 米国では、日米租税条約により、税金は日米合わせて20.315%となります(外国税額控除を利用した場合)
配当30%のイメージ
たとえば、米国籍ETFの VOO を1年保有していて、配当が 100ドル 出たとします。
- 米国で30ドル源泉徴収
- 手元に入るのは 70ドル
この 30ドル分は、基本的に戻ってきません。
シンガポール側で配当課税もなく、外国税額控除のような仕組みも使えないためです。
一方、値上がり益(キャピタルゲイン)については、
- 非居住外国人の米国株・ETFの売却益は、原則として米国では課税されず
- シンガポールもキャピタルゲイン非課税
という二重の意味で、通常は税金ゼロになります。
つまり、
- 配当 → 30%取られる
- 値上がり益 → 取られない
というのが、シンガポール居住者 × 米国ETF の基本構図です。
そこで登場する「アイルランド籍ETF」
ここでよく話題に上がるのが、アイルランド籍のETF(UCITS ETF) です。
代表例としては、
- CSPX:iShares Core S&P 500 UCITS ETF(累積型・S&P500連動)
- SPY5:SPDR S&P 500 UCITS ETF (Dist)(分配型・S&P500連動)
といった銘柄があります。
ポイントは、
中身は米国株(S&P500など)だけれど、
ファンドの国籍は「アイルランド」になっている
という点です。
アイルランド籍ETFだと税金がどう変わる?
アイルランドは米国と租税条約を結んでおり、米国株からアイルランド籍ファンドへの配当には 15%の源泉徴収 が適用されます。
つまり、
- 米国企業 → アイルランド籍ETF:15%課税
- 米国企業 → 米国籍ETF(VOOなど):30%課税
という差が生まれます。



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さらに、多くのアイルランド籍UCITS ETFは、
- 非居住者に配当(分配)を払うときに、アイルランド側で追加の源泉徴収を行わない
という設計になっています。
そのため、シンガポール居住者がアイルランド籍ETFを持つ場合、
- ファンドの中で 15%だけ 税金が引かれる
- その後は、
- 累積型ならファンド内で再投資
- 分配型なら非課税で投資家の口座に入金
という形になります。
累積型(Acc)と分配型(Dist)の違い
アイルランド籍のUCITSには、大きく分けて2種類のクラスがあります。
累積型(Accumulating・Acc)
- 受け取った 「税引き後の配当」 を、そのままファンド内で再投資します。
- 投資家の口座には配当が出てこず、その分だけ 基準価額(株価)がじわじわ上がる イメージ。
- 例:CSPX(iShares Core S&P 500 UCITS ETF USD (Acc))
シンガポールのように、キャピタルゲインに税金がかからない国では、
「税引き後配当を自動で再投資してくれる仕組み」
として、とても相性がいいタイプです。



再投資される配当金は税引き後の配当です。つまり、配当には税金がかかっていることには注意してください。
分配型(Distributing・Dist)
- 「税引き後配当」の一部または全部を、配当として投資家に支払う タイプ。
- 例:SPY5(SPDR S&P 500 UCITS ETF (Dist)), VUSA(Vanguard S&P 500 UCITS ETF Distributing)
配当を生活費の足しにしたい人や、「配当が出るとモチベーションが上がる」タイプの投資家に人気です。



キャッシュフローを改善するなら分配型がオススメです。
実際どれを選ぶのがよいか?
シンガポール在住で、
- 長期投資
- S&P500に投資したい
- 税金をできるだけシンプルにしたい
という前提なら、個人的には次のような考え方が自然だと思います。
① コア:累積型S&P500(CSPXなど)
- CSPX のような累積型のS&P500 UCITS ETFを「核」として、毎月コツコツ積み立てる。
- 税引き後配当は自動的に再投資され、余計な売買をしなくても複利効果が効いていきます。
② サテライト:分配型S&P500(SPY5など)
- 将来の生活費用に配当が欲しくなってきたら、SPY5 や VUSA のような分配型をサテライトとして追加。
- もしくは、すでにある程度の資産がある人は、最初から一部を分配型にして、四半期ごとの配当を楽しむ、というやり方もあります。



私は日本の証券会社で、累積型S&P500を持っているので、シンガポールではSPY5を買っています。
アイルランド籍ETFの弱点?
海外の投資フォーラムでは、
「アイルランド籍ETFは人気だけど、
米国ETF(VOOなど)に比べると流動性が劣る」
といった声もあります。
これは、
- US上場ETF(VOO・IVV・SPY)は桁違いの出来高・板の厚さを持っていて、スプレッドが極端に狭い
- アイルランド籍UCITSは、ロンドン・Xetraなど複数市場に分散上場している分、各市場で見ると出来高がやや薄く、時間帯によってスプレッドが少し広がる
といった「相対的な話」が多いです。
ただし、
- CSPX や SPY5 のようなメジャーどころは、純資産残高も大きく、個人投資家が毎月数百〜数千ドル積み立てるレベルであれば、実務上ほとんど困らないケースが多い のも事実です。
基本的な対策としては、
- 成行ではなく 指値注文 を使う
- ロンドン市場の コア時間帯(日本・シンガポール時間の夕方〜深夜) に取引する
この2つだけ意識しておけば、流動性リスクはかなり小さく抑えられます。
まとめ:シンガポールで米国ETFを買う前に押さえたいポイント
最後に、この記事の要点をもう一度整理します。
- シンガポール居住者が 米国籍ETF(VOOなど) を持つと、配当に30%の源泉徴収 がかかる。一方、キャピタルゲインは米国もシンガポールも課税なしが基本。
- アイルランド籍UCITS ETF を使うと、米国株 → ETF の配当課税は 15% になり、その後は
- 累積型ならファンド内で再投資
- 分配型なら非課税で投資家へ支払い
という流れになる。
- 長期・積立・シンプル運用を目指すなら、CSPX(累積型S&P500)をコア に据え、配当が欲しくなったら SPY5 や VUSA(分配型S&P500) をサテライトにするといった組み方が考えやすい。
- Redditなどで「流動性の懸念」が語られることもあるが、メジャーなS&P500 UCITSであれば、個人の長期投資では 指値+時間帯だけ意識すれば大きな問題になりにくい。
「どのETFが正解か?」は人によって違いますが、「どこの市場に上場しているか」だけでなく「ファンドの国籍」と「税金」まで含めて設計する と、シンガポール居住者としての強みをうまく活かせます。
この記事が、
「とりあえずVOO」から一歩踏み込んで考えるきっかけになれば嬉しいです。









